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切削加工と研削加工の違い│図面作図における成功・失敗談を含めて紹介

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ものづくりにおいて欠かすことのできない加工の技術。3Dプリンタなど新たな加工法も出てきていますが、製造業においては中小企業の持つ昔ながらの高い加工技術が今でも重要なポジションを占めています。そこで今回の記事では、最も汎用的である切削加工と研削加工の2つの加工法についてその詳細と両者の違い、筆者の体験談について紹介します。

切削加工と研削加工の違い

切削加工と研削加工はどちらも「材料の不要な部分を取り去ることで所定の形状を作る=除去加工」です。切削・研削加工は、例えば自動車のエンジンやトランスミッション部に使用されるシャフトやベアリング、洗濯機に使用されるモーターのシャフトや継手・バルブなど、金属製の製品や装置の部品を製作する際に欠かせません。
どちらの加工法も工作物(材料)を徐々に削り取って形を整えていく方法ですが、主に2つの違いがあります。

1つ目は使用する工具です。切削加工にはバイトと呼ばれる刃物を使用したり、ドリルを使って穴開けを行ったりしますが、研削加工では砥石を使用します。

2つ目は、加工精度です。一般的に切削加工より研削加工のほうが一度に削り取る量が少なく、前者は大まかに目的の形状を得る方法、後者が厳しい寸法公差を要求される精密な加工を施すイメージです。研削加工は一度に削り取る量が少ないため、加工時間が非常に長いという点も切削加工とは異なる点です。

なお、図面における切削加工の仕上げ記号は、従来の記号では逆三角1つから3つの間(▽~▽▽▽)で表現され、算術平均粗さ(Ra)では12.5~0.4の間で表記されます。
一方、研削加工においてはgrind(研磨する)を意味する「G」記号を仕上げ記号と合わせて表記する必要があります。

切削加工とは

切削加工は刃物を使用して工作物を削る加工法です。代表的な加工法として旋削加工、フライス加工、穴あけ加工の3つがあります。

旋削加工(旋盤加工)

旋削加工には旋盤と呼ばれる加工機を用いるのが一般的です。工作物をテーブルにチャックし、テーブルごと高速回転させながら固定したバイト(=刃物)に接触させることで不要な部分を除去していきます。バイトは工作物との摩擦熱で高温になりますが、これに対応するための工具が開発されてきました。一般的な工具はSK材(工具鋼)と呼ばれますが、旋盤加工では高速回転に対応した高速度工具鋼(ハイス鋼)や、超硬合金といった工具が主に使用されます。

バイトの当て方によってさまざまな加工法があり、外径を落とす「外径削り」や溝を加工する「突っ切り」、パイプ形状の内側を削る「中ぐり」などがあります。いずれの場合も切削速度、バイトの送り速度、切り込み深さなど、多くの知見が必要となります。

また、回転した際に工作物がブレないよう、基本的にチャックした反対側の中心をセンター(心押台)と呼ばれる治具で固定して加工を行います。

フライス加工(フライス盤加工)

フライス加工にはフライス盤と呼ばれる加工機を用います。旋盤加工とは異なり、こちらは刃物を回転させて工作物を削っていく加工法です。使用する工具も数多くあり、最も一般的な工具がエンドミルです。外周と底に刃を持った工具で、側面加工、溝加工、ポケット加工、座グリ加工とさまざまな加工を実現させます。

平面を加工する際には正面フライス(フェイスミル)を使用します。正面フライスは複数のチップ状のバイトを保持しており、この複数のバイトで広い面積を削り取ります。

他にもT溝加工用のT溝フライス、アリ溝加工用のアリ溝フライス、そして横型フライス盤では側(がわ)フライスと呼ばれる段差や溝を加工するための工具も存在します。

穴あけ加工(ボール盤加工)

穴あけ加工にはボール盤と呼ばれる加工機を使用します。手動レバーによって回転させながらバイトを工作物に接触させ、穴をあけていきます。穴あけ加工用の工具はドリルと呼ばれ、先端が三角形の形をした穴あけ専用のバイトです。

ボール盤で行う加工には、他にも工作物にめねじを施す「ねじ立て加工」や、穴径公差の厳しい精密穴を整えるための「リーマ加工」があります。ねじ立て加工にはねじ立てタップ、リーマ加工にはリーマと呼ばれる工具を用います。

研削加工とは

研削加工では切削加工とは異なり、研削砥石と呼ばれる円形の砥石を高速回転させながら工作物に接触させることで、不要な部分を削り取っていきます。

砥石は砥粒(とりゅう)と呼ばれる実際に工作物を削る部分と砥粒を結合する結合材、そして砥粒も結合材もない気孔という3要素で構成されます。砥粒の材質にはアルミナ質や炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの種類があり、用途に見合った選定が必要となります。

研削加工の方法も多岐に渡りますが、ここでは代表的な4つの加工法について紹介します。

平面研削

平面の工作物を削る方法で、研削加工の中で最も一般的な加工法です。砥石の向きとテーブルの動作によって大まかに4つのタイプがありますが、ここでは最も汎用的な横型角テーブル(往復運動)研削盤について説明します。

工作物を電磁チャック式のテーブルに固定し、上部から高速回転させた砥石を接触させ、Z方向へ一定の時間ごとに一定のピッチで下降し、徐々に工作物を削っていきます。テーブルは一定のスピードでX方向に往復運動を繰り返しますが、Y方向も一定のピッチで移動するため、砥石の幅よりも大きな工作物でも平面を均一に加工することが可能です。

このように、砥石を工作物に対して横切らせて削っていく研削方法を「トラバース研削」と呼びます。またトラバース加工に対し、砥石を工作物に押し当てて削る方法を「プランジ研削」と呼びます。

円筒研削

旋盤のように円筒形の工作物の中心を固定させた状態で高速回転させ、装置奥側から工作物とは反対方向に回転させた砥石を接触させて削り取る加工法です。砥石を軸径方向に動かして削る「プランジ式」と、工作物を軸径方向に動かす「トラバース式」の加工法があります。

内面研削

円筒など、円形の工作物の内面を削る加工法です。通常は砥石と工作物の両方を回転させますが、砥石だけを回転させる「プラネタリ形」と呼ばれる加工法もあります。大きな工作物や丸物を除いた不安定な形状に用いられますが、加工精度は通常のものよりも劣ります。

センタレス研削

円筒研削同様、円形の工作物を削る加工法ですが、固定方法が大きく異なります。固定されたブレード(支持刃)と回転するコントローラー(調整車)、研削砥石の3点によって工作物を支持します。円筒形工作物の中心を固定させる必要がないため、工作物の脱着が容易で、自動給排装置と組み合わせれば高い生産性が実現できます。また、工作物のたわみ量も少なく抑えられるため、加工表面を均一に仕上げることが可能です。

切削・研削加工における失敗と成功体験談

ここでは、実際に筆者が経験した切削・研削加工における失敗談と成功談について紹介します。

過剰品質を招いた失敗事例

複数の部品を組合せて一つのユニットを設計しようとした際、ユニットを構成する全ての部品に寸法公差を設けてしまいました。しかし、本当に必要な寸法だったのはユニット全体としての高さ方向の寸法のみ。

この場合はユニットを構成する部品全てに公差を入れる必要はなく、ユニットとして形を成した後に切削や研削によって高さ寸法を調整する方法がより良い選択でした。全ての部品に公差を入れても、部品点数が増える度に公差のバラつき量が足されてしまい、最終的なユニットの寸法を出すのが難しくなってしまうためです。

このような設計を累積公差を考慮した設計と呼びます。

加工業者との情報交換によってwin-winを築いた成功事例

いつも加工を依頼している加工業者が繫忙期を迎え、他の加工業者に依頼せざるを得ない状況になった際のことです。一般的な加工指示を記載しましたが、事前に担当窓口の方に話を伺うと、その業者では独自の表記をしたほうが意図した品質を得ながら加工工数を減らすことができるということでした。それをすぐに図面に反映したことで、加工業者の手間が減り、設計側もコストダウンにつなげることができました。

加工業者の持つ設備・技術者も多種多様です。情報交換をし、加工業者の特徴を考慮した設計によってお互いがメリットを得ることができました。

まとめ

切削加工と比較すると、研削加工は公差が厳しく求められる高精度な部品への適用が望まれます。「なぜ、その公差が必要なのか?」という視点で見直すことで過剰品質を抑え、コストダウンを図ることもできます。 それぞれの加工の特徴をしっかりと押さえること、また、協力してくれる加工業者の設備・技術も考慮することで業務を円滑に進めることができるでしょう。

執筆者プロフィール
Kamijo
10年以上「ものづくり」に携わってきた機械設計エンジニア。ものづくり・機械設計・生産技術・哲学・歴史・経済が得意な分野。

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