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【機械系】量産試作ではどのようなことをするのか?外注するメリットは

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機械製品を開発設計し、生産するまでには、いくつかのフェーズで試作を実施します。試作での問題点や課題を設計にフィードバックし、製品品質の向上や予測される不具合の未然防止に役立てます。ここでは、機械系製品の量産試作の目的や注意点について解説します。

量産試作と開発試作の違い

「量産試作」は字のとおり、量産を想定した製品試作です。対して、開発設計段階でおこなう製品試作は「開発試作」と呼ぶことができます。共に製品の試作ですが、この2つにはそれぞれの目的に大きな違いがあります。

それぞれの目的を端的に表すと、
開発試作=検証
量産試作=妥当性確認
と言えます。

開発試作

開発試作における検証とは、客先要求や製品仕様書に対して正しくアウトプットが得られているかの確認をすることです。設計した製品が要求されている事項を満たすことができるかを、試作品を製作し計測機や測定器などを使用して性能や特性の検証をします。また、強度や保証寿命といった項目を確認するために、破壊試験や耐久試験をおこなうための試作品を製作することも開発試作と言えます。

例えば、医療機器(血圧計や人工透析装置など)の場合、さまざまなセンサや制御機器が製品に組み込まれます。
・選定した機器の組み合わせで、要求される測定精度や制御精度を満たしているか
・顧客に危険が及ぶようなバグや欠陥は無いか、フェイルセーフは機能しているか
といった視点からさまざまな環境下で試験、検証するところから開発試作がおこなわれます。

そして、製品化に向けた意匠設計やレイアウト設計からプロトタイプを製作し、
・製品として正しく性能が発揮されているか
・要求仕様にそった耐久性や安全性、メンテナンス性が実現できているか
・図面や部品表に間違いや漏れはないか
といった部分を開発試作として評価します。

量産試作

開発試作が「正しく製品が作られているか(設計されているか)」を検証するのに対し、量産試作では「正しい製品を作ることができるか」の確認が主な目的となり、これを妥当性確認と呼びます。

特に機械系分野における開発試作では、いきなり高価な金型は立ち上げず、比較的高精度に仕上げることのできる切削加工で少量の部品を試作し、量産部品は生産性に優れる金型でのプレス加工や鋳造で大量に製造するといったケースが多くあります。当然、開発設計段階で量産部品を使って正しく製品が作られているかの検証は必要ですが、そういった量産部品には、必ず「バラつき」や「加工方法による特性の違い」が存在し、ときには図面規格外の部品が混入している可能性もあります。そのバラつきや特性の中でも正しい製品を作ることができるか、仮に不良品が発生した場合でも発見し除外することができるかを統計学的手法や検査機を準備するなどして、品質保証体制の構築をおこないます。

例として、医療機器(血圧計や人工透析装置など)の量産試作では製品の性能面はもちろんのこと、モノを流しながら量産試作をおこない、以下の点を確認しつつ工程やラインを作り込んでいきます。

・量産部品のバラつきの中でも仕様書どおりの製品を作ることができるか
・万が一不良が発生した場合、確実に発見することができるか、適切に処置できるか
・作業手順は適切か、工程パスや部品欠品が起きないようフールプルーフができているか
・必要な設備や治工具がそろっているか、性能は十分か
・人体に悪影響のある物質は使われていないか、安全に作業できるか
・作業者や設備、治工具からコンタミネーションが発生し異物混入にならないか、作業環境は適切か
・製品性能のばらつき=工程能力は規格内に入っているか
・組立サイクルタイムはどうか、工程がよどみなく流れるか、ボトルネックはどこか
・部品や製品の荷姿や保管状態は適切か、納期どおり出荷できるか
といった、製品を量産しデリバリーすることを想定し、正しい製品を作ることができるか

正しい製品というのは、顧客目線で正しい品質を満たしているのに加え、メーカー目線として、製品の採算を確保するために、正しいコストや納期、生産性、設備で作ることができているかの確認も量産試作に含まれます。そのため、量産試作は製造部門だけでなく、開発設計、品質保証、購買調達、生産管理、生産技術、といった部門を含めた幅広い視点からのチェックが必要となります。

量産試作を外注するメリット、デメリット

モノづくり企業であっても、
・ファブレスと呼ばれる工場機能を持たない事業形態
・まったくの新規事業分野への参入でノウハウがない
・小規模企業で生産技術的な製造ライン開発能力に乏しい
などの場合は、量産試作を外注することになります。ここでは量産試作を外注するメリットとデメリットを整理します。

メリット

・新規分野参入で専門家のノウハウが得られる
・量産立ち上げ期間の短縮ができる

大きなメリットとしては、製品量産化に関わる専門家に製造ラインや管理手法を監修してもらえることが言えます。特に量産化のノウハウが少ない場合、製品リリースまでのプロセスがトライ&エラーの繰り返しになり、時間も費用もかかります。さらに、近年では製品のライフサイクルが短いことやユーザーニーズの多様化によって、多品種少量生産や混流生産といった高度な生産ラインの流し方が必要になるため、量産試作の製造ラインや管理手法のノウハウが少なく、リソースやスケジュールをあまりかけられない場合は外注がおすすめでしょう。

デメリット

・量産立ち上げに関するナレッジが蓄積できない
・試作環境と量産環境の違いによるトラブル

逆にデメリットとしては、自社でトライ&エラーの経験が少なくなるがゆえに、製品の量産化に関わるノウハウやナレッジの蓄積しにくい恐れがあることが挙げられます。また、量産試作と実際の製造ラインとで、明るさや温湿度、振動、傾斜といった諸環境が異なることによって、部品や機器に調整が必要になる可能性があります。

スムーズに量産へつなげるためには

次に、スムーズな量産立ち上げのために試作段階で考慮しておくべき点や、スピーディーなモノづくりを実現するための開発設計手法について解説します。

コンカレントエンジニアリング

製品の量産を立ち上げるまでにはさまざまな部署が関わります。製品立ち上げまでに関わる部署が増えれば増えるほど、下流セクションからの手戻りの発生や、情報共有の抜け漏れといった問題が出てきます。また、上流プロセスのアウトプットを待ってから次工程をスタートするのでは、スピード感に欠けます。

そのなかでより効率的な部門間連携を目的としたものがコンカレントエンジニアリングです。コンカレントとは同時進行を意味します。

これは1980年代頃から世界的に提唱されはじめた開発手法で、複数の部署で分散協業的にプロジェクトを進めることで、早い段階での問題発見や品質向上を目的としています。製造側の視点では、設計初期段階から必要となる設備や治工具類の検討をスタートすることにより、量産立ち上げのスピードアップを狙うことができます。

また、最近ではモデルベース開発と呼ばれる開発手法が自動車業界を中心に注目されています。これは製品の設計段階から各セクションで3DCADデータ=モデルを共有し、変更やフィードバック、といった情報を抜け漏れなく共有するための、新たなコンカレントエンジニアリングと言えます。

デザインレビュー

製品開発の中で、いくつかのフェーズでデザインレビューといった会議を開催します。デザインレビューは設計だけでなく、営業、生産技術、製造、購買、品質保証など関連部門が、それぞれの立場から仕様や要件を満たしているかをチェックします。

実際の現場では、事前の情報共有が無い状態でデザインレビューが検図確認会議になっているケースが多くみられます。本来、製造上の懸念点や品質的な懸念点を払拭するための会議が、事前に各部門の立場から製品製造に関する検討がされず、その場で初めて図面や仕様が共有されるような状態になると、寸法抜けや設計ミスの指摘会議になってしまい、いざ量産が始まってから問題に対処することになります。特に、量産直前になってからの大幅な変更は、時間も費用も多く必要とすることから、できるだけ上流工程にリソースを費やすことで手戻りを少なくする“フロントローディング”の考え方により、懸念点は課題と5W1Hを明確にしてデザインレビューの場で徹底的に潰しておくことが、スムーズな量産立ち上げにつながります。

シミュレーション

近年の3DツールやVR技術の高まりを受け、量産立ち上げ段階でのラインシミュレーション活用が注目されています。これは、実際の製造ラインを構築する前に、コンピュータ上で仮想ラインを再現し、その中でヒトとモノの流れを可視化するものです。

製造サイクルタイムは設備や治工具の能力や性能だけではなく、モノの配置や移動距離といったラインレイアウトによっても大きく左右されます。多くは量産開始後に改善という形で最適化が図られますが、ラインを構築した後に試行錯誤しながらレイアウトを変更しようとすると、電源や配線配管などといった制約が発生します。そこで、インフラを固定する前にコンピュータ上で自由にラインレイアウトを検討し、理想的なサイクルタイムを設定しておくことが量産立ち上げの効率化につながります。

また、VRやARで視覚的にラインレイアウトを再現し、実際にラインで作業しているような視点からシミュレートする技術も続々と開発されています。

まとめ

製品を量産立ち上げするには幅広い視点や見識からの検討が必要となります。そのため、規模の小さな企業ではすべてを内部人材でフォローすることは難しい場合があります。そういった場合はアウトソーシングといった形で外部の有識者の知見を取り入れることも有効です。
また、新たなモノの作り方を実現する為の新技術やツールも続々登場しています。そのため、過去のやり方にとらわれず、柔軟な考え方で製品の価値を高めることが重要と言えます。

執筆者プロフィール
伊藤 慶太
技術士(機械部門 専門:加工・ファクトリーオートメーショ及び産業機械)
大学卒業後、生産設備メーカーでNC加工業務や半導体関連設備の機械設計業務を経験。
現在は、産業用機器メーカーの生産技術職としてIE(Industrial Engineering)手法をベースに、生産工程自動化設備の計画・設計やIT・IoT活用などよるファクトリーオートメーション業務に広く携わる。

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