吉田 和弘
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Think uniqueProject Vol.01

Special Interview 開発マネージャーが語る
日本酒のコールドスリープ技術
“MIYABINO”開発秘話

プロフィール

吉田 和弘

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技術部 デザインシステム課 受託開発Gr マネージャー

1998年入社。同年より大手電子機器メーカーへ出向し、情報端末やプリンターなど店舗用機器のプロダクトデザインに携わる。10年超のメーカー勤務経験を活かし、2009年より自社の受託開発デザイン部門の中心メンバーとして、コンシューマー向け商品をはじめ公共用端末など幅広い分野の製品デザインに携わる。
自社オリジナル商品の日本酒セラー「MIYABINO」の開発では、企画から外装デザイン、ロゴデザイン、ホームページ、パンフレットに至るまでトータルでデザインを担当。2003年度グッドデザイン(Gマーク)受賞。

杜氏のこだわりを
アルテクナの匠たちが受け継ぐ。
蔵元で生まれた味わいを
世界のお客様へ。

「ワインセラーがあって、なぜ日本酒セラーがないのか?」。そんな疑問から、おそらく世界初となる日本酒専用のセラー開発プロジェクトが誕生しました。

近年、世界でも人気で多くの方に愛飲されている日本酒ですが、本来、出荷時の鮮度を保つためには低温での保存が必要であることは、あまり知られていません。

「MIYABINO」開発の基となったプロトタイプの開発では、まず日本を代表する蔵元さんにヒヤリングを行いました。そこで分かったことは、蔵元ではしっかりと温度管理しながら仕込まれ、保管されているにも関わらず、出荷されたとたんに温度管理されていないことが多いという現実でした。出荷と同時に劣化が始まってしまっているということはつまり、私たちが美味しいと思って飲んでいる日本酒はすでに風味が落ちてしまっているわけです。さらに、この品質劣化は高級酒ほど顕著になるということも分かりました。蔵元が丹精込めてつくり上げた日本酒本来の味わいを余すところなく伝えられないのはもったいないですよね。

日本酒は非常に繊細です。火入れされたお酒と生酒では美味しさを保つための温度も異なります。さらに、本醸造酒か純米酒か、あるいは蔵元それぞれの銘柄によっても理想の温度は違ってきます。私たちはヒアリングの結果から、日本酒の種類や保存期間ごとに最適の温度を割り出し、製品スペックに反映しました。

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吉田 和弘 吉田 和弘

冷蔵庫の技術が
応用できないという壁が。
結露の発生や庫内の温度変化で、
困難を極めた開発。

「ワインセラーと技術的に何が違うの?」とよく聞かれるのですが、ワインセラーは5〜20℃の範囲で厳密な温度管理がされているものです。一方、日本酒を保管する場合、特に長期保存する場合は品質劣化を抑えるために凍るおそれのないギリギリの低温管理が理想であり、例えば爽酒である生酒の場合、もちろん銘柄によって多少の差はあれど、マイナス5℃が理想の保存温度とされています。

また一方で冷蔵庫との違いもよく聞かれます。冷蔵庫は1台のコンプレッサーで冷蔵・冷凍の温度帯を制御していますが、扉を開けた際の庫内の温度復帰に時間がかかったり、実は温度帯も冷蔵庫内の位置などでかなりの温度差があったりします。また温度精度がそれ程高くはないので一定の温度幅の中で微妙に上下しています。日本酒セラーの機能を実現するうえで温度精度は不可欠なので、それらのバラツキを限りなく無くすことも大切なのです。

そこで「MIYABINO」では、「マイナス5℃で保存できる冷却性能と温度誤差1℃以内」を製品スペックに掲げ開発に挑みました。実際、マイナスの温度帯で厳密に管理するためには、たくさんの技術が必要でした。まず、すぐに結露が発生するという課題が発生しました。その解決には断熱がポイントになるのですが、扉のガラスにはオリジナルの複層真空ガラスを使用し、内壁材には注入式発泡ウレタンを使用して断熱性を向上させました。制御装置の霜取り機能も間隔を調整するなど工夫をしています。また、日本酒を細菌や紫外線から守るため、庫内に抗菌処理を施し、ガラスはUVカット仕様を採用しています。

「MIYABINO」は左右2室備えていますが、各部屋で独立した温度制御を行っています。それを実現するために各部屋で個別の温度コントローラを割り当て、右の部屋では火入れ酒をマイナス2℃で、左の部屋では生酒をマイナス5℃で長期保管する、といった使い分けができるようになっています。また、右はワイン、左は日本酒といった使い方も可能です。1台のコンプレッサーで精度を維持しながら2つの異なる温度帯を管理するため、制御の調整を繰り返し行いました。

プロトタイプが完成!
しかし商品化の過程にも
大きな壁。
技術者とデザイナーの協奏で、
「MIYABINO」誕生。

プロトタイプの開発は他社とのコラボレーション企画だったこともあり、半年後に香港で開催されるワイン関連業界の展示会に間に合わせるというゴールが決まった短期集中の開発でした。プロトタイプは鏡面仕上げのスチールで覆われた外観に、内部は3室備えそれぞれにコンプレッサーを搭載する構成だったため、重さは家庭の床が抜けるレベルの400kgもある超重量級!

展示会ではインパクトがあり大反響を得ましたが、400kgのセラーではそのまま商品にすることは現実的ではありません。重量以外にも消費電力や製造コストなど解決すべき課題が多かったのですが、そこからコンセプトを活かしつつ販売できる商品に仕上げるのもアルテクナの真骨頂です。商品化にあたっては、制御や構造面など実用性の観点から再度、ゼロベースで数々の見直しが行われました。

「プロトタイプの高機能をそのままに、皆さまに販売できる商品に仕上げたい」という思いで、数多くの技術者とデザイナーがチーム一丸となって開発した「MIYABINO」は、デザイン面でも細部にこだわっています。扉には天然木のウォールナットを使用し、窓の複層真空ガラス内には日本の伝統工芸である組子をあしらい「和」を感じさせています。機能はもちろん、外観においても数々の高度な技術や職人芸が反映され、ついに世界に誇ることのできる日本酒セラー「MIYABINO」が完成しました。まさに日本酒のコールドスリープが実現した瞬間です。

チームの知と技が集結して生まれた「MIYABINO」は、世の中の「あったらいいな」というものづくりを“Think unique”な精神で探究し、挑戦し続けるアルテクナらしさによって実現できたプロジェクトだと言えます。

日本酒セラー「MIYABINO」

日本酒セラー「MIYABINO」

酒蔵で飲む日本酒本来の味わいをそのままに。
マイナス5℃の環境で出荷時の鮮度を保ちながら長期保存を可能にした日本酒専用セラー。
サイズ(mm):W675×D650×H1650 / 部屋数:2室 / 温度制御範囲:-5℃~20℃ /
収容目安(各最大):一升瓶36本、4合瓶94本 / 有効内容積:280ℓ / 外装材:鋼板 / 霜取り:自動制御 /
冷却方式:コンプレッサー方式 / 製造国:日本
※現在販売は終了しております。ご了承ください。

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