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リバースエンジニアリングはただのコピーではない│実施上の注意点や最新トレンド

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ものづくりは必ずしも企業や技術者の独自技術やノウハウだけで成り立っているわけではありません。中には競合製品を分解・分析し、自社製品の改良や競争力向上につなげる開発手法がとられ、それをリバースエンジニアリングと呼びます。また、近年ではDXやIoTといったスマートファクトリー技術活用のために、レガシーシステムのリバースエンジニアリングも多くおこなわれています。ここではリバースエンジニアリングを実施する上での注意点や、最新のトレンドに加えて、自社製品のリバースエンジニアリング対策に注目されている技術を解説します。

リバースエンジニアリングとは

リバースエンジニアリングとは、市販製品など“一般に公開されている”製品やプログラムなどを分解・分析し技術的データを得る工学的行為を意味します。

通常の製品開発においてはインプットがニーズや顧客情報でアウトプットが製品となりますが、リバースエンジニアリングではインプットが製品、アウトプットは図面やデータと言えます。リバースエンジニアリングも最終的に製品をアウトプットするためのプロセスであることには変わりありませんが、リバースエンジニアリングで得られた図面やデータをそのままコピーし製品にするのは違法行為です。

あくまでもリバースエンジニアリングの結果をもとにアイデアを得た製品は、オリジナルに対してQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)といった面で改良された独自のプロダクトである必要があります。

リバースエンジニアリングを実施するうえでの注意点

リバースエンジニアリングを実施するうえで注意すべきは、
・知的財産権を侵害しない
・製品の解析はできても工程の解析はできない
・リバースエンジニアリング後の製造責任は実施者、製造者にある
が挙げられます。

知的財産権を侵害しない

知的財産権に関する法令については、
・特許法
・著作権法
・不正競争防止法
が大きな柱と言えます。

知的財産権は時代背景や技術革新により、法律や司法の判断が流動するため、一概に線引きをするのが難しい部分ですが、一般的に私的利用や研究開発目的で“市販品から情報を得る”部分は合法とされています。問題となるのは“情報の取得方法”と“得た情報の使い方”によっては違法行為と判断される点です。

著作権法でいえば、リバースエンジニアリングで得た情報を第三者に渡したり、利益を享受したりすることは禁止されています。不正競争防止法では、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報などは営業秘密とされています。それらを不当な手段(盗用目的の引き抜き、なりすまし、ハッキングなど)で得ることは固く禁じられています。

一方、例えば利益を得なければ問題ないかと言えば、状況次第で判断が異なるため、リバースエンジニアリングで得た情報の利用は、弁護士や弁理士といった知的財産権に精通した専門家に指導を仰ぐのが最善です。

製品の解析はできても工程の解析はできない

つまり、リバースエンジニアリングで得られる情報は、目に見える部分でしかないとも言うことができ、ある程度推測はできるとしても、生産方法やノウハウ、原価構成などについては営業秘密であり、正確なところまでは見えません。

例えば、
・製品から採寸した寸法通りの部品を製作し、製品を再現しようとしても、特殊な治工具や検査機が必要で再現ができない
・オリジナルが内製化や協力企業との信頼関係などによって破格の単価で構成されており、さらにコスト低減しようとしても太刀打ちできない
・プログラムが特殊な開発環境でコーディングされ、そこから市販仕様にチューニングされており、同じ開発環境がないとデバッグができない

といったケースなどが考えられます。

リバースエンジニアリング後の製造責任は実施者、製造者にある

その見えない部分により、一見問題が起きそうな部分でも、独自のノウハウで問題が発生しないよう品質管理されている場合や、たまたま問題が発生していない場合もあるかもしれません。

仮に、リバースエンジニアリングの情報から製品を開発し、上記のようなオリジナルの潜在的な問題まで引き継いでしまい、市場で問題が発生した場合、その製造責任はリバースエンジニアリングの情報を利用した製造者に帰属します。

そのため、リバースエンジニアリングの実施には法律的な理解に加え、高い企業倫理、技術者倫理が求められます。一定のリスクを認識した上で、慎重に適用を検討する必要があります。

リバースエンジニアリングのトレンド

近年、ハードウェアに関しては、3Dスキャナや3Dプリンタといった3D技術の発達により、リバースエンジニアリングの技術的、工数的なハードルが低くなっています。また、デジタルツインによるシミュレータやAR、VR、MRといった現実とデジタルをつなげる仮想化技術利用のためにも、実体をデジタル化、3Dモデル化する目的でリバースエンジニアリングのニーズが高まっています。最近ではドローンなどを使って工場内外部全体を3Dスキャンし、一括してモデル化するようなサービスも出てきています。

ソフトウェアに関しては、設計書や仕様書などの技術資料が残っていなかったり、誰もそのプログラミング言語を扱えなかったりする、レガシーシステムの保守保全や刷新による技術伝承の目的でのニーズが高まっています。特に製造業がDXで目指すスマートファクトリーの実現には情報からモノまですべてがネットワークにつながることが必要です。

一方で、2025年の崖とも呼ばれる、多くの企業で独自の基幹システムが20年以上稼働している状態が予測されています。ブラックボックスで老朽化したレガシーシステムは、経済的にも技術的にも国際舞台から取り残され、競争力を失う原因となります。そのため、ハードソフトともにデジタル化やレガシーシステム刷新を目的としたリバースエンジニアリングが急速に広がりを見せています。

参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~│経済産業省

リバースエンジニアリングの活用例~3Dスキャナによる形状測定~

ノギスやマイクロメータといったスケールで測定することのできない複雑な曲面や、図面に表せないハンドメイド部品などの形状測定の場面で3Dスキャナが活躍します。
輸送機器の内外装やオフィスチェアといった、人間工学にもとづいてデザインされる製品はとても複雑な曲面が組み合わされており、スケールで計測する場合、複数ポイントの位置関係から曲面の関数を算出する必要があります。また、こうした製品の開発段階では、粘土や樹脂でハンドメイドモデルを作り、評価や修正の結果を図面にフィードバックするといった手順がとられます。そういった開発試作品の解析といった目的でも3Dスキャナによる形状測定でリバースエンジニアリングがおこなわれます。

開発・設計を請け負うアルテクナ社でもリバースエンジニアリングを用いた開発に対応しており、既存の立体モデルを3Dスキャナで形状をデータ化し、CADに取り込んで設計データに活用しています。

自社製品のリバースエンジニアリング対策に注目されている技術

とはいえ、自社の独自技術やノウハウといった知的財産についてはしっかりと保護する必要があります。 先述の3D技術が解析のための“攻めの技術”だとすれば、解析を難しくするための“守りの技術”も同時に大きく進歩を見せています。

ソフトウェアの場合

ソフトウェアにおけるソースコードの解読対策は、マルウェアとセキュリティソフトの関係のように、常にイタチごっこと言えます。そのため、コピーや改ざんを100%防ぐのは難しいですが、難読化や暗号化といった手法が古くから使われてきました。しかしながらコンピュータの高性能化にともなう、暗号化の解析精度の向上や解析時間の短縮などより、サイバー攻撃のようなクラッキング、ハッキング行為が日常的なものになっています。

そこで注目されているのが、暗号資産やNFTといったデジタル金融資産保護の目的で利用されているブロックチェーン技術です。ブロックチェーンでは過去の操作履歴がブロックと呼ばれる単位で記憶域に暗号化され格納されます。このブロックがチェーンのように時系列としてつなぎ合わされ、その記録を複数の拠点で分散管理し、唯一無二であることの証明とする情報技術です。今までの暗号化技術が“点”であるならば、ブロックチェーンによる暗号化は幅を持った“線”であると言えます。
しかし、サイバー攻撃による暗号資産の窃盗や人質化も発生しており、こちらもまだ完璧ではなく、イタチごっこではありますが、今後注目の情報保護技術です。

ハードウェアの場合

ハードウェアに関しては、採寸をしたり、型取りをしたりと外観から得られる情報が多く、統計学的手法で部品の加工精度や組立精度もある程度解析できてしまうため、コピーは容易と言えます。そのため、特許取得による情報保護が基本になります。

一方で、あえて部品加工の公差を大きくしたり、ムダな加工を追加したりして部品特性をぼやけさせ、組立や検査で性能調整するといった手法も考えられますが、それでは品質的にも製造コスト的にもあるべき姿とは言えません。

そこで、最近ではAIを用いて、部品特性のばらつきや時系列な変化から適切な部品の組み合わせを算出するようなシステムの開発がされています。部品のばらつきの許容幅が広がればそれだけ歩留まりやコスト面でも有利になります。それはまさにリバースエンジニアリングでは見えない部分であり、そういった生産技術的な部分も含めて新しい生産方式が今後必要とされています。

まとめ

リバースエンジニアリングは科学技術や産業の発展のために不可欠な工学的手法と言えます。実際、日本の自動車産業黎明期では欧米の車に酷似していた歴史もあります。しかし、欧米はさらに優れたモノを作る、日本も負けじと技術開発を進めるといった、技術競争の中で日本のモノづくりの基礎が醸成され、その歴史がなければ基幹産業へ成長することもなかったと言えるでしょう。
今後のデジタル社会を見据える中でも、リバースエンジニアリングはいっそう重要な要素となります。そのため、リバースエンジニアリングの実施者、利用者ともに法令順守意識と高い倫理観をもった上で、正当に活用していきましょう。

執筆者プロフィール
伊藤 慶太
技術士(機械部門 専門:加工・ファクトリーオートメーショ及び産業機械)
大学卒業後、生産設備メーカーでNC加工業務や半導体関連設備の機械設計業務を経験。
現在は、産業用機器メーカーの生産技術職としてIE(Industrial Engineering)手法をベースに、生産工程自動化設備の計画・設計やIT・IoT活用などよるファクトリーオートメーション業務に広く携わる。

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